2010年09月12日

古文書の読み方

「古文書が読める」というのは,文字の字面をただ技術的に読めることだけを意味するのではない。一字一句を正確に読み,細部の解釈や語句の意味にこだわり,疑問に思った点や,解釈が難しい点,わからない部分をごまかすことなく,可能な限り正確に読み解き,当時の人々の眼線に立つ努力をしながら,その背後にある歴史社会の全体像に迫ること,そうすることで,過去を生きた人々と対話すること,これこそが「古文書が読める」ことの本当の意味であろう。

『史料を読み解く2 近世の村と町』「本書を学ぶ読者へ」

これは何も史料としての古文書を読み解くことだけに適用されるものではない。あらゆる文献や資料の読解にも通じる姿勢である。文献の時代背景や社会状況,社会通念なども十分に考慮して読解していくことが何よりも重要である。逆に自己流の解釈や憶測・推測・思い込みからの解釈は本来の意図や内容とは遠くかけ離れたものになってしまい,不正確な読解となる。何事においても,偏見や先入観からの独断を廃して,作者の意図を正確に読み取ることが大事である。

古文書においては「原文」を読み下すことは相当の慣れが必要であるし,専門家は別として古文書に触れる機会もそれほど多くない者にとっては,それほどの必要性はないと思う。むしろ,活字となった「釈文」や「読み下し文」を正確に読みこなすことの方が大切である。

ここでは,「釈文」を読み下す場合に必要な基礎知識をまとめておこうと思う。「釈文」には,変体仮名のような独特の読み方や意味をもつもの,慣用表現が多い。これらを例示して覚えておくと,わりと楽に読むことができる。

本来は「変体仮名」などは半角で表記すべきだが,Web上での表記が難しい場合もあり,そのままに全角で表示するかひらがな(読み下し)で表記している。

変体仮名

江(え)・而(て)・与(と)・者(は)・茂(も)・而巳(のみ)・可(か)・志(し)・堂(た)・多(た)・婦(ふ)・連(れ)・王(わ)〆(しめ)・于(に)

慣用句・特別な読み方

斗(ばかり)・抔(など)・間敷(まじく,まじき)・紛敷(まぎらわしき)・六ヶ敷(むつかしき)

かならず返って読む

被(被仰付:おおせつけられ)・可(可被仰付:おおせつけらるべき,可致:いたすべき)・不(不相知:あいしれず,不及:およぼす)・無(無之:これなく,無拠:よんどころなく)・有(有之:これあり)・於(於福岡:福岡において,於有之:これあるにおいて)・就(就夫:それについて)

返る場合も返らない場合もある文字

為(「させる」「なす」「たる」「として」と読む場合は返る,被為仰付候:おおせつけさせられそうろう,為後日:ごじつのため)・及(及差支御達及候:さしつかえおよびおたっしおよびそうろう)

疑問・接続等を示す文字

哉(や:だろうか)・欤(か:あるいは)・条(ので)・間(ので)・并(ならびに:そして)

くり返しの記号

ゞ(ひらがな・濁音)・ゝ(ひらがな)・ヽ(カタカナ)


武家文書

古文書を読んでいると,最初は「くずし字」に悪戦苦闘するが,同じ文言が何度も出てくるのでいつしかなんとなく読めるようになる。所詮,言葉であり文字である。しかも外国語ではなく日本語である。ただ,コツはある。その一つが「独特の言い回し」を抜き出して覚えてしまうことだ。外国語のフレーズ(熟語・慣用句)と同じである。

農村文書や願(訴)状の最初の行には,「乍恐以書付御願奉申上候」がよくある。「恐れながら,書き付けをもって,お願い申し上げ奉り候」である。

他にも「被仰付候」(仰せ付けられ候),「可得御意候」(御意を得べく候),「無御座候得共」(ござなく候えども)「成間敷候」(なるまじく候),「可被下候」(下さるべく候)などという言い回しがよく書かれているので,こうした熟語をまずは覚えることから始めると結構わかってくる。

また,現代語では使わない用法を理解することだ。それは「御」や「可」「候」「被」「為」などや,変体仮名と助詞である。これもフレーズで覚えてしまう。

「可被仰聞由」(おおせきけらるべきよし),「可有御座候間」(ござるべくそうろうあいだ),「可被思召候」(おぼしめさるべくそうろう),「成間敷候」(なるまじくそうろう),「奉存候」(ぞんじたてまつりそうろう),「以面可申入候」(めんをもってもうしいるべくそうろう:会ってからお話しします),「被成」(なされ),「被為成」(なさせられ)などがある。

尊敬語,謙譲語も武家文書の特徴である。身分間の上下関係のきびしさと,礼節を重んじたことがわかって興味深い。「令」(せしめ)は謙譲の意を示す。手紙文などには,「態以書状令申候」(わざとしょじょうをもってもうさしめそうろう),「一筆令啓上候」(いっぴつけいじょうせしめそうろう)という冒頭の文言が多い。

上記の例は,『江戸時代を探検する』(山本博文)より引用したが,歴史関係の本,部落史も同様だが,史料引用の場合に,読みとして「ルビ」がふってあったり,現代語訳が併記してあったりすることがある。専門書や論文では少ないが,一般向けの本では親切である。そんなとき,独特のフレーズを抜き出してノートに書き留めておくとよいと思う。

posted by 藤田孝志 at 01:29| Comment(1) | TrackBack(0) | 古文書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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